那覇地方裁判所 昭和52年(ワ)87号 判決 1977年12月15日
原告
吉川勇
被告
桑江常雄
主文
被告は、原告に対し、金一九四万六七〇五円及びこれに対する昭和五二年三月三〇日から完済に至るまで年五分の割合による金員の支払をせよ。
訴訟費用はこれを五分し、その二を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。
この判決の主文一項は仮に執行できる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 原告
被告は、原告に対し、金四九六万四七九一円及びこれに対する昭和五二年三月三〇日から完済に至るまで年五分の割合による金員の支払をせよ。
訴訟費用は被告の負担とする。
仮執行宣言
二 被告
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求の原因
1(事故の発生)
原告は、昭和四九年三月八日午前零時五〇分頃、那覇市前島三の一の一四沖縄ボルト前国道五八号道路上を泊方面に向かつて右側から左側に横断中、泊方面から久茂地方面に向けて走行してきた訴外奥野忠雄運転の小型乗用車(沖五わ一二三〇)に前部バンパー付近で衝突され、右大腿骨骨折で全治一年一か月余を要する傷害を受けた。
2(責任原因)
被告は、那覇市久茂地二丁目八番地の八に本店、同市字上間二七四番地に支店を有する通称「希望の広場ナハレンタカー」なる自動車有償貸渡業者であり、その保有車両を不特定多数人に有償で貸渡しその運行により利益をあげることを営業としている。被告は、その保有自動車を利用者に貸渡すにあたり、無断で第三者に運転させ又は転貸し、無断でこれを修理し又は他の工場で修理させ、或いは自動車の内外に手を施してはならない旨厳格な使用条件を付しており、被告には運行利益と運行に対する支配とが存在する。
本件事故当時訴外奥野が運転していた自動車は被告が有償で貸渡したものであるから、被告には自賠法三条の運行供用者としての責任がある。
3(事故による損害)
(一) 治療費 一八万五〇四六円
県立中部病院(49 3 8―49 3 20入院) 一二万五八八〇円
浜松外科(49 3 20―49 4 6入院) 二万五九八〇円
浜松外科(50 4 9―50 4 19再手術のため入院) 三万三一八六円
(二) 付添看護費 一一万八五六六円
四二日間の入院期間中、原告は歩行困難のため実母吉川茂子の付添看護を受けた。吉川茂子は合資会社吉川商会の取締役で年間一〇一万六五八七円の所得を有したから、その一日分は二八二三円であり、四二日分で一一万八五六六円となる。
(三) 通院交通費 一八〇〇円
原告は、昭和四九年四月七日から同年一一月二八日までの間に浜松外科に六日間タクシーで通院した。その片道一回の交通費は一五〇円であり、六日分で一八〇〇円となる。
(四) 栄養費 六万三〇〇〇円
一日一五〇〇円としての四二日分
(五) 休業補償費 三六三万六九五二円
原告は沖縄市在のワールドプロモーシヨンオキナワ社の営業部長であつたもので、昭和四八年一二月から同四九年二月までの月平均給与は二二万三四一五円であつた。これを二五日で除した八九三六円が一日当りの損害であり、原告は昭和四九年三月八日から同五〇年四月一九日まで四〇七日間休職したから、逸失利益は三六三万六九五二円である。
(六) 慰謝料 一〇〇万円
原告は、本件受傷により、二回の手術を受け、恢復まで四〇七日間を要した。その間の肉体的精神的苦痛の慰謝料として金一〇〇万円が相当である。
(七) 弁護士費用 六八万四七九三円
原告は本訴追行のため弁護士に訴訟委任し、成功報酬八パーセント、謝金八パーセントの支払を約した。
4(保険金による填補)
原告は、被告に対し、前項の合計額五六九万一五七円の損害賠償請求権を有するところ、自賠法に基づき七二万五三六六円の保険給付を受領した。
5 よつて、被告に対し、残額四九六万四七九一円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である昭和五二年三月三〇日から完済に至るまで民事法定利率の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 被告の答弁
1 請求原因1項の事実は知らない。
2 同2項の事実のうち、被告が原告主張の如きレンタカー業者であること、本件事故当時訴外奥野が運転していた自動車は被告が同訴外人に貸渡したものであること(有償の点は否認する。)はいずれも認めるが、被告が運行供用者であることは否認する。
3 同3項の事実のうち、休業補償費の点は否認し、その余は知らない。
4 同4項の保険金受領の事実は認める。
三 被告の抗弁
原告は、深夜、飲酒のうち、付近に横断橋があり道路中央に分離帯もある六車線の国道五八号道路上を、中央分離帯上で一時停止して安全を確めることもせず、漫然と加害車両の直前を横断して、本件事故にあつたものであり、事故発生については原告にも過失がある。
その過失割合は二〇パーセントと評価されるべきであるから、右の割合による過失相殺を主張する。
四 抗弁に対する原告の認否
否認する。
第三証拠〔略〕
理由
一 事故の発生
成立に争いない甲一、二、一〇、一一号証、乙一、二号証を総合すれば、原告は、昭和四九年三月八日午前零時五〇分頃、那覇市前島三の一の一四沖縄ボルト前国道五八号道路上を東から西に歩行して横断中、泊方面から久茂地方面に向けて走行してきた訴外奥野忠雄運転の普通乗用自動車(沖五わ一二三〇)に右前部で衝突され、右大腿骨骨折、第一腰椎横突起骨折等の傷害を受けたことが認められ、この認定に反する証拠はない。
二 責任原因
被告が、那覇市に営業の本拠を置く「希望の広場ナハレンタカー」なる商号の自動車有償貸渡業者であつて、その保有車両を不特定多数人に有償で貸渡してその運行により利益をあげることを営業としていること、本件事故車は被告の保有車両であつて訴外奥野に貸渡していたものであることはいずれも当事者間に争いがない。
しかして、レンタカー業者は、その保有車両に関し、これが所有権を有すると否とを問わず、一般的に運行につき支配力を有するから、被告において本件事故当時の事故車の運行につき被告が具体的な運行支配と運行利益とを有しなかつたことを主張立証しない限り、被告は本件事故につき運行供用者責任を免れることができないものであるところ、被告は訴外奥野に対する事故車の貸渡じが有償ではないと主張するのみで、他になんらの主張をせず、無償貸渡しであるというだけでは運行供用者性を否定する理由とはなり得ないから(使用貸借の事業で運行供用者性を肯定した最判昭四六・一・二六民集二五巻一号一〇二頁、及び同昭四六・一一・一六民集二五巻八号一二〇九頁がある。)、被告の訴外奥野に対する事故車の貸渡しが有償であつたか否かを審究するまでもなく、本件事故について被告は運行供用者責任を有するものといえる。
三 損害
1 治療費
成立に争いない甲二ないし七号証、乙一号証によれば、原告は、本件事故による受傷のため、請求原因3項(一)記載のとおり県立中部病院及び浜松外科整形医院に入院し、また昭和四九年四月七日から同年一一月二八日までの間浜松外科整形医院に通院し、その治療費及び診断書料等として同記載のとおり合計一八万五〇四六円を支払つた事実が認められる。
2 付添看護費
前認定の原告が受けた傷害の部位程度及び入院期間に成立に争いない甲八号証並びに弁論の全趣旨を総合すれば、原告は通算四一日の入院期間中実母吉川茂子の付添看護を受けたこと、これにより一日当り三四五六円(吉川茂子の昭和四八年中の年収一二六万一八〇〇円を三六五日で除したもの)で総額一四万一六九六円の損害を被つたことが認められ、反証はない。
3 通院交通費
成立に争いない甲七号証及び弁論の全趣旨によれば、原告は、昭和四九年四月六日の浜松外科整形医院退院後、同年一一月二八日までの間に少くとも五回タクシーで通院し、交通費一五〇〇円を支出したことが認められるが、右以上に交通費を要したとの証明はない。
4 栄養費
原告主張の栄養費は、入院実日数四一日、一日当り五〇〇円、総額二万五〇〇円の限度で経験則上支出があつたものと認める。それ以上の支出を要した特別の事情の証明はない。
5 休業補償費
成立に争いない乙三号証の一、二、証人上原康弘の証言及び原告本人尋問の結果を総合すると、原告は、本件事故当時、ワールドプロモーシヨンオキナワ社に那覇支社営業部長として勤務していたこと、原告は、昭和四八年中に完全歩合制の本社勤務の外務員から固定給と歩合給併給の支社勤務役付社員となつたこと、原告の昭和四八年中における申告所得額は、外交員報酬分四九万五四四〇円、給与所得分九八万二五〇円であることが認められ、右認定に反する証拠はない。しかして、原告が外務員から役付社員に昇格した時期を認めるに足る証拠はないから、原告は昭和四八年中に総額一四七万五六九〇円、一日平均四〇四二円九八銭の所得を有したものと認定するほかはなく、原告が昭和四八年一一月から同四九年一月までの間に七四万四三六〇円の給与を受けた旨の甲九号証の記載は前出乙三号証の一、二の記載と対比するとたやすく信用し難い。他に原告の本件事故当時の収入額を認める根拠となる証拠はない。
しかして、原告が本件受傷により昭和五〇年四月一九日まで就労できなかつたことは前記1に認定の事実によつて明らかであるから、原告はこの間の四〇七日間に一六四万五四九二円(円未満切捨て)の得べかりし収入を喪失したものといえる。
四 過失相殺
成立に争いない甲一一号証、乙一、二号証に原告本人尋問の結果を総合すると、本件事故現場は片側三車線(片側幅員九・六メートル)の国道五八号道路上であり、事故車の進行方向に向かつて現場の約三〇メートル前方には横断歩道が存在したが、原告は、酩酊のうえ、敢えて横断歩道の設けられていない車道上の横断を開始したものであること、当時は、深夜のうえ、小雨が降り始めており、自動車運転者にとつて視界は良好ではなかつたが、原告は横断開始前に加害車両の接近を認めており、ただ原告との間に約二、三〇〇メートルの距離があつて優に渡り切れるものと判断したため横断の挙に出たものであること、原告は当時三〇歳の健康な男子で正常な精神能力を有したこと、一方、運転者訴外奥野も周囲に気をとられて前方の注視を怠り、原告を約一九メートル余前方に発見してはじめて危険を認識したにすぎないこと、加害車両によるスキツドマークは二〇・一メートルであり、衝突から停止位置までの距離は九・五メートルであること、原告は、横断を開始してから中央線を越して事故地点に至るまでの間、接近する加害車両に全く注意を払わなかつたことがそれぞれ認められ、右認定に反する証拠はない。
これらの事実を総合すると、原告には、横断歩道外の車道を、遠望の利かない小雨降る深夜に、接近する自動車に注意を払わず横断した点に過失があるけれども、他方、訴外奥野が時速五〇キロメートル以上の速度で前方不注視のまま運転していたことも明らかであり、本件における原告の過失相殺率は一五パーセントとするのが相当である。
五 慰藉料
前認定の原告の傷害の部位程度と入通院日数のほか、証人上原康弘の証言によつて認められる、原告が本件受傷のためワールドプロモーシヨンオキナワ社を自然退職せざるを得なかつた事実(もつとも同社はその後営業を廃止している。)、更に前叙原告の過失の寄与を総合考慮すると、本件受傷による原告の精神的損害は金八〇万円をもつて慰藉されるべきものと判断される。
六 損害填補
原告が自動車損害賠償保障法に基づき七二万五三六六円の保険給付を受けた事実は当事者間に争いがない。
七 弁護士費用
本件受傷と相当因果関係にたつ本訴弁護士費用は、通常の例にならい、上記三の一九九万四二三四円から一五パーセントを減じた一六九万五〇九八円に五の慰藉料額を加え、六の金額を減じた残額一七六万九七三二円の一〇パーセント一七万六九七三円とするが相当である。なお、右弁護士費用は、その少額なことからみて、本訴提起前に現実の損害として発生しているものと認められる。
八 以上によれば、原告の本訴請求は、金一九四万六七〇五円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日であること記録上明らかな昭和五二年三月三〇日から完済に至るまで民事法定利率の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において、理由がある。
よつて、右理由のある限度でこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却し、訴訟費の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文を、仮執行宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 稲守孝夫)